医療・福祉

卵子の染色体を長く守る新因子「OMC1」を発見 千葉大学・理化学研究所の研究チーム

卵子の染色体を長く守る新因子「OMC1」を発見 千葉大学・理化学研究所の研究チーム

千葉大学と理化学研究所の研究チームが、卵子が長期間にわたって染色体の結合を保つために必要な新規タンパク質「OMC1(Oocyte Meiotic Chromosome protein 1)」を発見しました。研究チームは、千葉大学大学院医学研究院/次世代in vivo研究探索センター(cNIVR)の石黒啓一郎教授と島田龍輝講師、同大大学院医学薬学府の飯阪早希絵氏、理化学研究所生命機能科学研究センターの北島智也副センター長兼チームディレクターと吉田周平技師らで構成されています。成果は2026年10月29日(現地時間)、学術誌Nature Agingで公開されました。

胎児期の「接着剤」を数十年使い続ける卵子

女性の妊娠する力(妊孕性)は、加齢とともに低下する傾向があります。その大きな原因の一つが、卵子の染色体の数が正常と異なる状態になる「異数性」です。異数性は不妊や流産のほか、ダウン症候群などの染色体疾患の原因にもなります。

卵子と精子は「減数分裂」という特殊な細胞分裂で作られますが、その過程は大きく異なります。精子は思春期以降、生涯にわたって新しく作られ続けます。これに対して卵子は、母親のおなかの中にいる胎児の時期に作られた後、減数分裂を途中で止めたまま長い休眠状態(ディクチエート期)に入ります。休眠期間はマウスで数か月、ヒトでは30~40年以上に及ぶこともあり、排卵のときに初めて減数分裂が再開されます。

休眠中の染色体をつなぎ止める「接着剤」の役割を担うのが、REC8コヒーシンと呼ばれるタンパク質です。REC8コヒーシンは休眠中に新たに補充されないため、卵子は胎児期に作られたものを何十年も使い続ける必要があります。加齢とともにREC8コヒーシンが減ると染色体をつなぎ止める力が弱まり、染色体が正しく分配されにくくなります。しかし、この長寿命タンパク質がどのように長期間機能を保っているのかは、ほとんど分かっていませんでした。

OMC1はREC8コヒーシンを染色体上に保持して守る

研究チームは、長期間休眠する卵母細胞だけで働く染色体保護因子があると考え、探索を進めました。雌マウスの胎児期卵母細胞と雄マウスの生殖細胞について、一細胞RNAシークエンスのデータを比較しました。さらに、減数分裂の開始が遅れるSTRA8変異マウスのデータも組み合わせ、卵母細胞が長期休眠へ移る時期に特異的に働く遺伝子を絞り込みました。その結果、これまで機能が分かっていなかった遺伝子が見つかりました。この遺伝子は胎児期後半の卵母細胞で強く発現する一方、雄の生殖細胞や体のほかの組織ではほとんど発現していませんでした。このタンパク質が卵母細胞の染色体上に存在することから、研究チームはOMC1と名付けました。

解析の結果、OMC1はREC8コヒーシンと重なるように染色体上に局在していました。休眠中の卵母細胞だけでなく、減数分裂が再開した後の卵子でも染色体上に存在していました。OMC1を欠損させたマウスでは、胎児期の卵子形成にほとんど異常はありませんでした。ところが出生後、卵母細胞が長期休眠に入ると、染色体上のREC8コヒーシンが通常より早く減少しました。このことから、OMC1はREC8コヒーシンを新たに作るのではなく、染色体上につなぎ止めて守る働きをしていることが分かりました。

成熟したOMC1欠損卵子では、染色体上のREC8コヒーシンが減少し、染色体同士の接着も弱まっていました。その結果、若いマウスであっても、卵子の染色体が予定より早く分離する異常が起きました。これは、加齢した卵子でみられる代表的な染色体異常とよく似た現象です。

一方、OMC1欠損卵子にOMC1 mRNAを導入すると、染色体上のREC8コヒーシン量が回復し、染色体分配異常も大きく改善しました。反対に、正常な卵子からOMC1だけを急速に取り除くと染色体分配異常が増え、OMC1を再び導入すると改善しました。これらの結果から、OMC1は長期間の休眠中だけでなく、減数分裂が再開した後もREC8コヒーシンを守る重要な役割を担っていることが明らかになりました。

ヒトの早期閉経に関連する遺伝子との接点

マウスのOMC1に相当するヒトの遺伝子はCCDC201と呼ばれ、早期閉経の病気に関連する遺伝子変異が報告されています。この変異に相当する変異を持つマウスのOMC1は染色体に結合できず、染色体異常を改善することもできませんでした。また、OMC1欠損マウスでは加齢とともに産仔数も減少しました。研究チームは、これらの結果から、ヒトでもCCDC201の機能低下が生殖寿命の短縮に関わる可能性が示されたとしています。

卵子老化を「維持機構の破綻」として捉える視点

研究チームはOMC1について、加齢そのものを止める因子というより、卵子の「染色体寿命」を延ばす維持因子と位置づけています。今回の発見により、卵子老化を時間の経過による受動的な劣化としてだけでなく、染色体を長期間守る維持機構の破綻という観点から捉える道が開かれたとしています。そのうえで、卵子の染色体接着を加齢による低下から守る仕組みの一端を明らかにできたことは、出産年齢の高齢化が進む現代社会において大きな意義をもつと考えています。

今後の課題として、研究チームは以下の点を挙げています。

  • OMC1がREC8コヒーシンと直接相互作用するのか、既知のコヒーシン制御経路を介して働くのか
  • 休眠中にOMC1自身がどのように維持されるのか
  • ヒト卵子におけるOMC1/CCDC201の機能や、卵子老化・早期閉経の個人差との関連

なお、成体卵子へのOMC1導入は接着異常を部分的に抑えましたが、すでに失われたREC8コヒーシンを再構築するものではありません。研究チームは、加齢に伴う卵子の質の低下を抑える新たな生殖医療や不妊治療への応用につながる可能性に期待を寄せつつ、有効性と安全性の慎重な検討が必要だとしています。本研究は、文部科学省・日本学術振興会科学研究費助成事業、AMED-PRIME、三菱財団、内藤記念科学振興財団、アステラス病態代謝研究会、上原記念生命科学財団、武田科学振興財団などの支援を受けて実施されました。

出典:国立大学法人熊本大学

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